伊藤忠商事(8001)は11月5日に2025年度第2四半期(中間期)決算を発表し、連結純利益は5,003億円(前年同期比+618億円)と過去最高を更新しました。
通期見通し9,000億円に対する進捗率は56%と順調なペースで推移しています。
非資源分野が好調を牽引
資源価格の下落があった一方で、伊藤忠商事は非資源ビジネスの強さが際立ちました。
資源に頼らない分野の利益は全体の約9割を占め、前年からさらに拡大しています。
中でも好調だったのは次の4つの分野です。
・繊維事業
スポーツブランド「デサント」を完全子会社化したことで利益が大きく伸びました。
デサントは中国・韓国・日本での販売が好調で、海外店舗の拡大やスポーツ需要の高まりが収益を押し上げています。
また、ユニフォームやコンビニ向け衣料「コンビニエンスウェア」など、身近な商品も堅調に売れています。
・食料事業
バナナで有名な「Dole」や、豚肉事業の「HYLIFE」などの生産量が増加し、採算も改善しました。
さらに、食品流通を担う日本アクセスや伊藤忠食品が扱う取引量が拡大し、食の安定供給を支えるビジネスが成長しています。
食料関連の幅広い事業でバランスよく利益を伸ばしました。
・情報・金融事業
グループ会社のCTC(伊藤忠テクノソリューションズ)が、AIやクラウドなどのデジタル化需要を取り込み業績を拡大。
また、保険代理店「ほけんの窓口」も順調に手数料収入を伸ばし、金融分野でも堅実な成長を見せています。
・第8カンパニー(ファミリーマート)
全国のファミリーマートが48か月連続で前年を上回る売上を達成。
店舗のリニューアルや新サービスの拡充に加え、店内広告やデジタルサイネージ(電子看板)を活用したメディア事業も急成長中です。
これらの分野が業績全体を押し上げ、非資源分野の連結純利益は4,420億円と過去最高水準に到達しました。
まさに「生活と消費に根ざした強さ」が伊藤忠の成長を支えています。
➡非資源分野の利益が全体の約9割を占めており、これまでの「資源中心の商社」とは異なる構成になっています。
資源価格の変動に左右されにくいビジネスモデルを確立しているため、他の総合商社と比べても安定して高い利益水準を維持しています。
資源分野は減益も持ち直しの兆し
資源価格の下落により金属分野が減益(前年同期比▲369億円)となった一方、エネルギー・化学品部門ではLNG取引や電力取引が堅調でした。
豪州の原料炭事業やブラジルの鉄鉱石事業では、下期以降の回復が見込まれています。
増配と株式分割で株主還元を強化
伊藤忠商事は、年間配当を10円増配の210円(株式分割前ベース)とし、11期連続増配を発表。
さらに、2026年1月1日付で普通株式を5分割する予定です。
加えて、1,500億円を上限とする自己株式取得を実施中で、総還元性向は50%を目途としています。
➡株主に対して安定的かつ積極的な還元を続ける姿勢が明確に打ち出されています。
通期見通しと今後の展開
伊藤忠商事は、通期の連結純利益見通しを9,000億円と据え置きました。
一方で、利益の基礎となる「基礎収益」は、8,000~8,200億円のレンジに見直され、より現実的で信頼性の高い予想に修正されています。
これは、為替や資源価格の変動を考慮しつつも、既存事業の安定成長を重視した判断です。
今後の成長をけん引する主な柱は次の3つです。
① デサントの海外展開強化
中国や韓国を中心に、スポーツウェアの需要が拡大。
現地でのブランド認知が高まり、店舗数や売上が順調に増えています。
アジアでの収益基盤拡大が期待されています。
② ファミリーマート×セブン銀行の新サービス
ファミリーマート店内にセブン銀行のATMを設置し、「買い物+金融サービス」を一体化した新しい店舗モデルを展開。
今後は、ローンや電子マネーなど、より多機能な金融サービス提供を目指します。
これにより、ファミリーマートの利便性向上と両社の収益拡大が見込まれます。
③ AI・データセンター事業の拡大
グループ会社の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、AIやクラウドなどデジタル化需要を取り込み好調。
特にデータセンター向けシステムやセキュリティ分野での需要が高く、今後も「IT×商社」の強みを活かした成長が期待されています。
伊藤忠商事は、「生活密着型ビジネス」「デジタル」「金融」という3本柱を軸に、資源価格の変動に左右されにくい安定的で持続可能な成長モデルを築いています。
各年の業績情報
伊藤忠商事は、景気減速や為替変動の中でも、「非資源の伊藤忠」らしい底堅さを発揮。
株主還元にも積極的で、長期投資家にとって引き続き注目の商社株といえるでしょう。
